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もっと深刻だったのは、数年前、当時FRBの副議長だったJ氏が日本のある討論会に出席して、ドイツ連銀からの出席者と討論になったときのことです。
当時ジョンソン副議長は、ドイツ連銀の出席者とドル・マルクレートについて議論していたのですが、ル・マルクとドル・円の区別がつかない日経の記者によって、この日の夕刊に、マーケットを何十年も生き抜き、このような誤解が起きうることを知り尽くしているルービン財務長官からしてみれば、危なくて円のつまみ食いはできないのです。
日本の貿易黒字問題については、本当は円のつまみ食いをして解消したいのですが、できません。
できないなら、どうするか。
そもそもこのような対外不均衡を是正するには、為替でやるか、日本の内需拡大でやるか、この二つしかありません。
為替の話ができないとなると、日本に対して内需拡大の約束を守れと言うしかありません。
だから九七年の年初から今日まで、アメリカの政府高官は毎回日本の政府高官と会うと日本は内需拡大を、この間ずっとアメリカに約束しています。
約束したどころか、日米両サイドは同じ政権の同じ人たちがこの問題を担当しています。
だから「いや、あれは前の政権の話だ。
今は全然違う」と言えないのです。
会うたびに「お前、二年前、約束したき、必ず日本に内需拡大の要求をするのです。
「内需拡大をやれ。
財政でやれ」という要求です。
本当は為替の話もしなくてはいけないのに、今できないためです。
ところが内需拡大は、これまでの日本の政府にとって一番困るものです。
これまでは、日本政府は財政再建と決めてしまっているのです。
しかもH政権は、財政再建に全政治生命をかけてしまいました。
主導のドル安になったら、おそらく株、債券市場は目茶苦茶になってしまったでしょう。
さらに九七年後半から、円安が原因でアジア経済が崩壊しました。
この点については第三章で触れたとおりですが、その後、先ほど述べたように、円安は日本の銀行の内外における貸し渋りの重大な原因にもなっているのです。
邦銀の自己資本は円建てなのに対し、邦銀が海外で持っている資産はその多くがドル建てなので、円安になりますと、ここが円で見ると大きく膨らんでしまいます。
そうなると、限られた自己資本に対して貸し出しが大きく見えるわけですから、貸出額と自己資本との比率を一定に保たなければならない邦銀は、自己資本を増やすか、貸し渋るかの選択を迫られてしまうのです。
銀行の自己資本増強が難しい現状では、銀行は結局、貸し渋りに走るしかないのです。
私が聞いた話でも、大蔵省の高官は日本の機関投資家に「ドル、買うなよ」とさかんに言って回っているそうです。
一年前とちょうど逆です。
日本売りで円安が続くと、アメリカとの約束だけでなく、日本経済もアジア経済も持たなくなってきているのです。
当局のスタンスはお話ししましたように、アメリカ政府も日本政府も円安は困ります。
こちらはできたら二○円か、それ以下にしたい。
一○五円とか二○円の間くらいならアジアの経済も楽になるし、銀行の貸し渋りも緩和され、日本株を持っている外国人投資家も楽になります。
一ドル一○五円くらいになりますと、アメリカも文句を言わなくなりますが、アメリカは二五円では、まだ文句を言うでしょう。
実際に彼らは文句を言っていました。
だから二○円から一○五円くらいまで持っていければ、日米関係も良い方向へ持っていけるわけです。
当局者は、円高のほうがいいと思っているわけですが、市場の為替ディーラーたち、特に海外の為替ディーラーはどう思っているかというと、これが政府とまったく逆なのです。
一ドル三○円は円安ではない、一ドル一五○円を円安と言うのだ。
あるいは二○○円を円安と言う人までおります。
彼らの議論の根底には、日本経済が崩壊寸前であることがあります。
銀行問題も手つかずのままで、クレジットクランチに陥ってどうしようもない。
これから生保の問題や年金問題も出てくるだろうし、高齢化問題が出てくれば財政赤字なんて出せるはずがない。
財政赤字が出せなければ、景気対策は打てない。
景気対策を打てなければ、経済はもっと悪くなる。
景気が悪くなれば日銀も金利を上げられない。
こんな目茶苦茶な国の通貨が買われるはずがないというのが、海外ディーラーたちの見方です。
多くの内外のディーラーは、日本政府はやはり本心は円安を望んでいるのだろうという見方を依然として持っています。
彼らは日本やアジアが円安でどのくらい苦しんでいるのか理解していないのです。
そんなこんなで、今の為替市場は政府とマーケットの大変な綱引きのど真ん中にあると言えます。
日本が円高に持っていくとどうなるでしょうか。
銀行の貸し渋りは緩和されても、今度は今日本で唯一元気な輸出企業の元気がなくなってしまいます。
こう見ると、右も左もふさがったような状況にも見えてきますが、私は、すべての問題はとにかく財政再建を守ろうというところから出ているのではないかという気がします。
財政再建ではなく、財政出動ということになれば、日本経済全体の雰囲気が変わります。
アメリカも日本が財政出動をするのは大いに結構だということになりますし、実際に日本の景気もよくなるでしょう。
そうなれば外国人投資家も入ってきて、株も上がります。
株が上がれば銀行も楽になり、それに金融安定関連法で決まった三○兆円が活用されれば、今日本全国を襲っている貸し渋りも解消するでしょう。
「日本売り」も止まり、円高にもなるでしょう。
こうして見ると、私はすべての根源は財政の問題にあると思います。
たしかに、これまで自民党は財政再建に政治生命をかけていました。
財政構造改革法案が実際に通り、一応財政再建の枠組みはつくられています。
二○○三年までGDP比で赤字を三パーセントまで落とすということが、この法律の中に書かれています。
そんなところへ、「やはり財政をやりましょう」と言ったら、この法律をどうするのだということになります。
その自民党の政治家の人たちが今、着実に動き出しています。
しかも、自民党は極めて現実的な人たちの集まりです。
なにしろ社会党のmrさんを首相に指名するくらいですから、おそらく世界で一番現実的な政治家たちの集まりだろうと思っています。
私は本当に事態がおかしくなったら、彼らはコロッと変わって、やっぱり財政政策でいこうという可能性があると期待しております。
その意味ではあまりに悲観的になる理由もないでしょう。
自民党はどこかで正しい政策に変わると期待をしております。
実際に私が接している海外の投資家にも、「今は、自民党は財政再建なんて言っているけれど、いずれ現実的な対応を示してくるだろう」と見ている人はいます。
今は全政治生命をかけた財政構造改革法があるため、動きは鈍い。
そうすると短期的には、事態はさらに悪化すると考えておくべきではないかという気がします。
実際、自民党への期待や、日本政府は、最後は正しい選択をするだろうと踏んで、まだ日本株を持っている外国人投資家もたくさんいます。
それなのに、財政出動が出てこなかったら、本当に大変な事態になります。
外国人投資家もここにきてとうとう我慢できなくなり、ずいぶん日本株を売りました。
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